会計事務所の方から「顧問先の借入金負担が重たいから、銀行に債権のカットをお願いできないかな?」と相談されることがあります。

また、会社の社長から「銀行は借金の棒引き(債権カット)をしてくれる場合があるって聞くけど、うちはできないかな」と言われることがあります。

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ヤスマサ
今日はよく頂く「債権カット」に関するお話です。資金繰りが苦しい会社は、ワラをもつかむ気持ちでいるとは思いますが、現実は結構難しいです。
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「債権カット」は狭き門

まず結論からですが、金融機関から「債権カット」という金融支援を受けるのは狭き門となります。

本記事のあとの方にデータを記載していますが、中小企業再生支援協議会(中小企業の再生支援、資金繰り支援をしている公的な機関)が関与の下で実施している案件で10~20%程度となっています。

実際に中小企業の事業再生に携わっている者として、この10~20%程度という数値は、とても高いと感じています。あくまでも、個人的な感覚としてです。

この割合がとても高いと感じる背景としては、

公的な中小企業再生支援協議会が関与の下で実施する案件は、客観的にも公平性や妥当性が確保しやすいため、損失が大きく発生する債権カットについて、金融機関も合意しやすいという点があります。

中小企業再生支援協議会という仕組みが有効に機能しての結果であると思います。

公表データから見る「債権カット」案件の推移

下のデータは、中小企業庁から3ヶ月毎に公表されている「中小企業再生支援協議会の活動状況」という情報から作成したデータになります。

中小企業再生支援協議会が関与した案件について、資金繰りに困った中小企業が、金融機関からどのような金融支援を受けたのか、という情報も記載されています。

過去10年以上のデータがあるのですが、今回は2018年4月~2020年9月までのデータを抜き出して、表にまとめています。

なお、以下の注意点がありますので、ご注意ください。

  • 3ヶ月毎での公表になっており、1年単位では公表されていないこと
  • 件数が公表されていないため、独自に追加での集計&計算ができないこと
  • 1案件について、複数の手法を用いて金融支援がなされるケースもあるため(ex.DDSとリスケジュールをセットで実施)、単純に合計すると100%を超えていること
出典:中小企業庁HP 中小企業再生支援協議会の活動状況https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/kyougikai/index.htm

3ヶ月毎の推移であるため数値のブレが大きいですが、直接放棄と第二会社方式での債権カットの合計で10%~20%程度となっています。

また、リスケジュール(返済スケジュールの見直し)が70%~90%程度で推移しており、資金繰りに困った会社への金融支援策の中心になっていることが分かります。

なお、繰り返しになりますが、中小企業再生支援協議会という公的な組織だからこそ、債権カット案件が10~20%と高い割合になっている、というのはデータを見る上での注意点になります。

また、中小企業再生支援協議会以外の公的な仕組みとして、

事業再生ADR手続による再生支援

地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援

などがあります。

これらの仕組みも、利害関係者が多く、かつ債権カットやDESなどを活用する難易度が高めの再生支援が行われています。

逆にこのような公的な仕組みを使わなければ、私的整理において金融機関から債権カットの金融支援を得ることは難しいと言えます。

なお、「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」を活用しての債権カットなどは基本的には難しいです。

会社の資金繰りに困った際に使える補助金(経営改善計画策定支援)

銀行が債権カットする理由

次に銀行が「債権カットする理由」を考えていきたいと思います。

なぜ銀行は債権カットに応じてくれるのでしょうか?

それは単純に「債権カットすることが回収額の最大化になるから」です。

これが考え方の原則となります。

判断基準は「株主利益」の観点

掘り下げて説明をしていきます。

銀行は「株式会社」でもあり、かつ多くの銀行は「上場」しています。

このため、銀行側は、「株主利益」の観点から、「債権カットが貸付金の回収額を最大化できる最善の手法である」と説明できる必要があります。

特に上場している銀行であれば、この株式会社の原則に反するような意思決定は、経営者が株主から責任追及をされる可能性が高くなります。

これが原則の考え方です。

つまり、このままだと資金繰りが続かずに会社としてつぶれてしまうと、銀行はほとんど貸付金を回収できないが、

一部の債権をカットしてでも、会社を存続させた方が、回収額が多くなると見込まれる場合には、「債権カットもやむなし」という合理的な意思決定が行われます。

判断材料としてその会社を存続させる「社会的な意義」

但し、一つ重要なこととして、ある会社が資金繰りで苦しんでいる段階で(端的に言うと赤字にある段階で)、

その会社の債権をカットした方が回収額が最大化できるかどうかなんて、

将来のことなので究極は「わからない」です。

(これは極端な話をしているので、支援する際には、様々な観点から、再生可能性が検討され、再生可能と判断されて実行されています)

このため、「債権カットをするかしないかの意思決定」を判断する材料として、

その会社を存続させる「社会的な意義」というのが重要となります。

「社会的な意義」というは、その会社がつぶれた際の

  • 従業員の雇用
  • 取引先への影響(連鎖破綻)
  • 地域経済への影響

などが検討ポイントになることが多いです。

この「社会的な意義」と「株主利益」は密接な関係にあり、

その会社を存続させることが、

  • 地域の雇用を守ることにつながる
  • 取引先の連鎖破綻の防止につながる
  • 地域経済への悪影響も小さくなる
  • 他の融資先の業績悪化の回避につながる

などの理由から、株主にとっても一番良い方法である、という説明がつきやすいほど、債権カットを実施しやすいことになります。

裏を返せば、小規模な会社は債権カットによる支援対象とはなりにくく、

多くの従業員を雇用している、取引先が多数かつ多額にわたるなど、

ある程度の企業規模もあり、地域経済への影響が大きい企業が支援対象になりやすいという現実があります。

まとめ

債権カットを受けられるのは、中小企業再生支援協議会という公的な機関が関与した案件で10~20%程度です。

世の中には、中小企業再生支援協議会が関与しない案件も数多にあることを考えると、債権カットという支援策は、資金繰りに困った会社のうちの(恐らく)数%しか受けられないということになります。

銀行にとっても、債権カットは業績に与えるインパクトも大きく、それを実施する合理的な理由も必要であり、相当踏み込んだ策になるためです。

そのような狭き門の金融支援となるため、一定以上の規模と社会的な影響力のある会社が対象とされ、年商数億円程度、従業員が数名や十数名程度の規模では、なかなか対象にならないというのが現実になります。

参考にして頂けると嬉しいです。