2020年12月で、公認会計士歴もいつの間にか18年目にもなり、大企業から中小企業、個人事業主の方まで含めて1,000社を超える決算書を見てきました。
そんな中で、今回は、中小企業の決算に慣れていない方向けに、中小企業でよくある粉飾決算のお話をさせて頂きます。
中小企業では、基本的に「銀行からの評価」を気にして、赤字決算を避けるために粉飾決算が行われます。
中小企業の粉飾決算は、勘定科目明細などの細かい情報を簡単に見ることができるので、少し会計知識のある人が見れば、比較的すぐに分かります。
よくある粉飾決算の手法
会社によってその巧妙度は異なりますが、よく見かける手法は、以下の5つになります。
- 在庫数量をごまかして「在庫」の金額を多く計上している
- 回収ができない「多額の売掛金」を計上している
- 実際には存在しない「多額の現金」を計上している
- 不明な「多額の仮払金」を計上している
- 固定資産の減価償却費を意図的に計上していない(※1)
なお、上記のうち「5.」は「粉飾じゃなく、法人税において認められた処理だ!」と言われる方もいると思います。(※1)
確かにそうだと思いますが、この記事では「粉飾決算」は、
本来あるべきよりも、決算書の数値をよく見せることを目的にして、意図的に決算数値を操作すること
と定義して説明をしたいと思います。
(※1)法人であれば、税金の計算上、固定資産の減価償却費を計上しない(その分だけ利益が大きくなる)ことも認められているので、違法な処理ではありません。
粉飾決算をする動機は「銀行からの評価」
東芝やオリンパスなど、大企業の粉飾決算は大々的にニュースに取り上げられますが、実は中小企業でも、粉飾又は粉飾に近い決算は行われています。
その一番の動機は、
「銀行からの評価を下げたくない」
というものになります。
つまり
これから融資を受けたい、又は、
既に融資を受けているが、新規の借入れができなくなると資金繰りが厳しくなる
というのが、中小企業が粉飾決算をする動機となります。
このため「赤字にしたくない」という思いから、「わずかに利益がプラス」の決算が組まれることになります。
特に、複数年にわたって微妙に利益が出ている決算書は、見る人から見ると「粉飾の可能性があるかも」と思われている可能性があります(もちろん偶然そのような決算になることもあります)。
粉飾決算の方法を掘り下げて説明
1. 在庫数量をごまかして「在庫」の金額を多く計上している
在庫の金額を大きく計上することで、利益を多く見せたり、赤字なのに黒字のように見せるケースは結構多いです。
統計データなどではなく、僕個人の感覚的なところですが、これはケースとして一番多いのではないかと思います。
理由ですが、
在庫の金額を調整することが、外部から見ても一番分かりにくく、後からでもごまかしがききやすいためです。
では、次に在庫の金額を調整しやすい理由ですが、
在庫の金額は「数量」×「単価」で計算するところ、
「数量」は自分たちでカウントするので、その際に数量を適当にごまかしてしまえば、在庫の金額を多くして、見た目の利益を多くすることができてしまいます。
しかも、後々になって、過去の決算の時に、実際に在庫がいくつあったかを確認することは難しいため、どうせばれないだろう、という気持ちになってしまうケースが多いように思います。
2. 回収ができない「多額の売掛金」を計上している
在庫の次によく見かけるのが、回収ができない多額の売掛金を計上しているケースがあります。
回収できない理由としては、大きく2つあり、
- 1つ目は、過去に実際に売上を上げたが、何かしらの理由で回収できなくなったもの
- 2つ目は、そもそも架空の売上を上げたため、請求すらできないもの
の2つになります。
これも感覚的な話になりますが、どちらかといえば1つ目の、過去に実際に売上を上げたが回収が焦げ付いてしまったケースの方が多いように思います(架空売上の方は相当悪質なケースになります)。
売掛金が回収できないので、どこかのタイミングで費用として処理したいものの、銀行の評価が気になって、そのままにしていることが多いです。
また、税務上の損金算入の要件をみたさない場合や、利益が出ておらず損金算入のメリットがない場合には、顧問会計事務所も費用処理を提案しないということも背景にあります。
3. 実際には存在しない「多額の現金」を計上している
実際には存在しないにもかかわらず、多額の現金を決算書に計上しているケースもあります。
「現金」は、通帳という明確な履歴が残る「預金」とは違い、過去にいくらの残高が実際にあったのかを確認することが難しい、という特徴があります。
このような特徴を悪用して、
架空売上と売掛金の計上 → 売掛金を回収したことにして架空の現金を計上
という流れで処理されているケースを見かけます。
会社にある現時点の「現金残高」が、決算書の現金残高と大きく乖離がある場合に、その理由を確認していくことで粉飾が発覚することがあります。
4. 不明な「多額の仮払金」を計上している
これもたまにありますが、よく内容がわからない「仮払金」を多額に計上しているケースもあります。
このケースは、会社と顧問会計事務所のコミュニケーションがうまく取れておらず、会社からの内容不明な支出を、顧問会計事務所が「仮払金」として処理し、その金額が多額に積みあがってしまった、というのが多い印象です。
多額になった仮払金を費用として計上すると赤字になるため、処理ができずに決算書に残り続けることになります。
会社の社長としてはそれほど悪気がなくとも、事実を知りながら決算書を良く見せている場合には、粉飾決算に該当すると言えます。
5. 固定資産の減価償却費を意図的に計上していない
これは最も悪気がなく行われている処理ですが、固定資産の減価償却費を計上すると赤字になる場合には、減価償却費を計上しない、という方法です。
会社(法人)の場合には、税金の計算上、固定資産の減価償却費を計上しないことも認められているので、決算書の見た目が悪くなるために、このような処理が行われることがあります。
赤字にしたくない、という強い動機からこのような処理をするのは、粉飾決算と言えるでしょう。
まとめ
中小企業でよくある粉飾決算の方法を解説しました。
監査、税務顧問、コンサルティングなどを問わず、中小企業向けにサービスを提供していると、このような粉飾をしている会社に一定程度出くわします。
そして社長にもそれほど悪気はなく(悪気がないのも問題ですが)、軽い気持ちで決算書の数値を調整してしまっている、ということが多いです。
会計プロフェッショナルとして、その際に「粉飾決算はだめだ」と一刀両断するのみでなく、
正しく決算を組むようアドバイスをした上で、社長に改善の意思と誠意があるのであれば、銀行などの利害関係者との関係においてもソフトランディグさせるべく立ち回ることが求められます。
そのような役割ができると、プロフェッショナルとして、社長と銀行からの更なる信頼も得られ、次の仕事につながってくることになります。