顧問先の資金繰りが厳しい状況にあるけれども、どのように動いていいのかわからない、という相談を会計事務所の方から頂くことがあります。
今回はコロナ影響で顧問先が資金繰りに困った際の基本的な動き方をまとめました。
顧問先の資金繰り支援の動き方の全体像
顧問先の資金繰り対策として、どのように動いていけばよいか、まずは動き方の全体像を記載します。
基本的には、ステップは以下の5つですが、資金繰りは会社の一番重要な問題であり、早く動くことが重要なので、1~4のステップを1~2時間の面談1回で実施するイメージとなります。
その後、ステップ5の銀行に相談するまでの間に、当初は粗く作成した「業績の見通し」や「資金繰りの見通し」の数値の精度を上げていく、という流れになります。
- 足もと(1~3ヶ月後ぐらい)の資金繰りを把握する
- 将来の売上と費用の見通しを把握する
- 数ヶ月~12ヶ月後ぐらいの資金繰り見通しを把握する
- 状況を見極める
- 銀行に相談する
では、次から具体的にもう少し詳細に解説していきます。
1. 足もと(1~3ヶ月後ぐらい)の資金繰りを把握する
このステップは、短期的に資金がショートする可能性がないかどうかを確認することが目的のため、短期的な資金繰りの心配がない場合には、このステップは実施する必要がありません。
注意点として、顧問先が自社の資金繰りの状況を正確に把握していない可能性があるため、顧問先から口頭ベースで「短期的に資金繰りは問題ない」という説明を受けていても、資金繰り表やExcelファイルを入手して、実際に確認する方がよいケースが多いです。
短期的な資金繰りのを把握するために必要な情報は、主に以下のようなものになります。
- 今の現預金残高
- 手もとにある現金
- 事業用口座の預金通帳
- 本日~3ヶ月先の入金予定日と入金予定額
- 得意先への請求書
- 販売データ
- 本日~3ヶ月先の出金予定日と出金予定額
- 仕入先等からの請求書
- 仕入/購買データ
- 給料台帳
- 借入金の返済予定表
- 社会保険料の支払予定額
- 納税予定(消費税、所得税、住民税など)
これらの情報を入手して、Excelで簡単に短期的な資金繰りの見通しを作ります。
来月や再来月の資金繰りが苦しい場合には、すぐに対応策を実施する必要があります(本記事での解説は、そのような状況ではないケースを前提としています)。
2. 将来の売上と費用の見通しを把握する
次に、将来12ヶ月間程度の売上高と費用の見通しを立てていきます。
以下のようなイメージで、「業績の見通し」をExcelなどで月次ベースでざっと入力していきます。
なお、売上高や費用の見通しは、今後も変えながらシミュレーションしていくことが前提になるので、最初の段階では、金額の妥当性の検討にたくさんの時間をかけるよりも、まずは社長から聞いた金額を入力していけば問題ありません。
このステップにより、業績がどれぐらい厳しいかを具体的な数値で共通認識を持つことができます。また、この情報を元に資金繰り表を作成していきます。
3. 数ヶ月~12ヶ月後ぐらいの資金繰り見通しを把握する
次に、先ほど作成した業績見通しから、資金繰り表を作成していきます。
資金繰り表も売上高や費用の見通しと同じく、以下のような形で、Excelなどで月次ベースでざっと作成していきます。
この表は、先ほどの「業績の見通し」の表と似ていますが、「資金繰りの見通し」になります。
「資金繰り見通し」の詳細な作り方は別の機会にご説明したいと思っていますが、主な注意点は以下になります。
- 特に売上高や仕入高に関しては、翌月回収や翌月支払いなどの回収サイトを考慮する必要がある。
- 「業績の見通し」を売上高や仕入高を税抜きで入力している場合には、「資金繰り見通し」では税込み金額にする必要がある。
- 法人税、消費税等の納税を考慮する必要がある(特に消費税には注意)。
- 「資金繰り見通し」の細部にこだわり出すとキリがないため、利用目的に応じて、どこまで精緻化する必要がるかを考える。
4. 状況を見極める
続いて「資金繰り見通し」から状況を見極めるステップになります。
まずは状況の見極めとして、大きく2つに分かれます。
- 自力で資金繰りが回りそうな場合
- 自力では資金繰りが回らないと考えられる場合
自力で資金繰りが回りそうな場合
自力で資金繰りが回りそうな場合は、特に外部へのアクションは不要のため、継続して状況を見守ることになります。
なお、この際の注意点としては、顧問先の社長が想定した「業績の見通し」やそれに基づく「資金繰りの見通し」が楽観的な場合には、実際には「もっと早期に行動しておくべきだった」ということに後々なってしまうということです。
このようにならないためにも、
- 「業績の見通し」は顧問先の社長に慎重にヒアリングし、「資金繰り見通し」を保守的な数値で見ておくこと
- その上で、少なくとも月1回程度の頻度で「業績の見通し」と「資金繰りの見通し」をアップデートし状況を確認すること(モニタリング)
には注意を払うべきです。
自力では資金繰りが回らないと考えられる場合
このままの見通しでは、自力では資金繰りが回らないと考えれる場合には、基本的には銀行に資金繰りの相談をすることを検討します。
ここでの注意点ですが、資金繰りが苦しいからと言って、金利が高いノンバンクからの調達や、取引先への支払猶予などは基本的に取るべき策ではありません。
資金繰りに不安を感じている顧問先と共に銀行に相談にいくのが適切な対応になります。
5. 銀行に相談する
銀行に相談する際には、以下のような流れで相談を進めていきます。
- まずはメイン銀行に相談をする
- ダメもとでも、まずは新規融資を相談してみる
- 新規融資が難しい場合にはリスケジュールの相談をする
- メイン銀行の次に他の銀行に相談をする
まずはメイン銀行に相談をする
複数の銀行から借入れしているケースが多いと思いますが、資金繰りが苦しい際の相談はメイン銀行から相談をしていきます。
顧問先の社長からすると「メイン銀行」の認識がない場合もありますが、基本的には「借入金の残高が一番多い銀行」ということになります。
仮に資金繰りが苦しい時に、メイン銀行以外に相談に行っても、「メイン銀行さんはどう言っていますか?」「まずはメイン銀行さんに相談して欲しい」と言われることが一般的です。
ダメもとでも、まずは新規融資を相談してみる
今後の業績見通しの状況にもよりますが、まずは新規融資を相談してみるというのも、資金繰り策としてはやるべきです。
特にコロナ関係であれば、国や都道府県単位で、特別な融資が政策として用意されていたり、今後も用意される可能性もありますので、そこはまず検討すべきとなります。
また、顧問先にとっても、新規融資を受けられるのであれば、リスケジュールという少し後ろ向きの対策よりもよいでしょう。
注意点は、
- 真実ではない情報を伝えて無理に新規融資を受けること問題となる
- 新規融資を受けた直後のリスケジュールは問題となる
という点になります。
詐欺的な行為とならないように注意することが必要です。
新規融資が難しい場合にはリスケジュールの相談をする
新規融資が難しい場合には、リスケジュールの相談をすることになります。
リスケジュールをするに際しては、最低限の情報として、
- 業績見通し
- 資金繰り見通し
は必要となりますので、銀行に前提を説明できるように準備をしておきます。
特に、「いつの時点」で、「どれぐらいの額」の資金が不足する見通しなのか(リスケジュールで確保すべき最低額となる)は把握しておく必要があります。
また、銀行の見立て次第で、別の資料を要望されることもありますので、その際には顧問先に準備をしてもらうことになります。
メイン銀行の次に他の銀行にリスケジュールの相談をする
リスケジュールをする場合は、基本的には「全銀行が足並みを揃えて実施してもらうこと」が条件となります。
このため、メイン銀行からリスケジュールの承諾が得られたら、他の銀行にも同様に説明とお願いをしていくことになります。
まとめ
今回は、実際に顧問先が資金繰りに困った際に、どのような手順で考えていけばよいのかをまとめました。
繰り返しですが、基本的には以下の5つが基本ステップとなり、資金繰りの困窮度合いで、そのステップで実際に取り組む深度が異なってきます。
- 足もと(1~3ヶ月後ぐらい)の資金繰りを把握する
- 将来の売上と費用の見通しを把握する
- 数ヶ月~12ヶ月後ぐらいの資金繰り見通しを把握する
- 状況を見極める
- 銀行に相談する
本記事を記載している2020年12月時点において、コロナの経済への影響は長期化することが見込まれています。
また、2021年以降は、コロナ対策として融資を受けた借入金の返済が始まる会社も多いと思います。
これらの状況を踏まえて、顧問先の資金繰りの相談に適切に乗れるように準備しておきましょう。